社会的地位が免疫に与える影響

社会的な問題が人の健康に影響を与えるということは、今ではもう誰もが当然のことととらえています。
とりわけ、社会的な地位の健康や病気への関与が最近の研究でもホットな分野のようです。

社会的な地位はどのように人の健康に影響しているのか。

WHOの『the Solid Facts』(確かな事実) という報告によると、社会的な地位が低かったり経済的に恵まれなかったりすると、病気にかかったり早死にしたりする割合が増えるそうです。

日本人でも「主観的に評価した自分の健康」の指標が教育歴が高い人や経済的に困難でない人では、それぞれのそうではない人と比べて高いことが明らかになっています。

このように、社会的な地位が健康に影響を与えるのは確からしいのですが、どういう生物学的なメカニズムでそのような変化が生じるのかについてはわかっていませんでした。

社会的地位が免疫を変える

f:id:mcharcot:20170228022206j:plain
マカクという種類のサル(ニホンザルもこの仲間)を使った米国デューク大学の研究から、社会的地位の高さ(群の中でのポジション)が健康に与える影響の要因の一つとして、身体の免疫の性質自体が地位によって変わっているということが明らかになりました。

この研究ではサルを使うことで、医療へのアクセスや、お酒・タバコといった身体に悪いとされるものによるリスクの影響を除くことに成功しています。

研究によると群れの中で地位の高いサルと低いサルでは免疫にかかわる細胞の種類に変化があるそうです。
地位の高いサルはナチュラルキラー細胞や細胞傷害性T細胞といった細胞の割合が免疫細胞全体の中でも多くなります。
ナチュラルキラー細胞や細胞傷害性T細胞はウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃する働きを持つ細胞ですので、こういった働きが強くなることで健康を保っているのでしょうか。

さらに細胞の種類だけでなく、生じている免疫反応自体も社会的地位の高さによって変化しているようです。
細菌の細胞壁に含まれる毒素であるリポ多糖は免疫細胞を活性化させることが知られていますが、リポ多糖で刺激されたときに地位の低いサルではMYD88という分子を通じて炎症を生じさせるような経路の免疫が活性化しました。
一方で、地位の高いサルではTRIFという分子によるウイルスを排除するような経路が活性化し、MYD88の経路に関係する分子は減少していました。

まとめ

以上に見てきたように、社会的な地位によって免疫の性質が変わって健康が左右されているようです。
他にも、地位によって受けるストレスが違うことで、ホルモンを介して健康に影響を与えているといった説もあるようです。
いずれにしても非常に興味深い話だと思いました。


参考
金貞任(2010)「社会的地位と健康状態」『GEMC journal』3, p.34-49.
Noaah Snyder-Mackler et al., (2016) "Social status alters immune regulation and response to infection in macaques" Science. 354, p.1041-1045.