食器の洗い方が子供のアレルギーに関係する?!
「一昔前はアレルギーの子供なんていなかった。最近の清潔すぎる環境のせいでこんなに多くの子供がアレルギーになっている」
というような話はどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これはアレルギーの衛生仮説というもので、乳幼児期にアレルギーを起こす物質に接触する機会が少ない(=衛生的な状態)と幼児期以降にアレルギーを起こしやすいというものです。
幼いころからアレルゲンによく接触していると、身体の免疫が「ちょうど良い程度の反応」をすることができるようになるため、「行き過ぎた反応」をしてアレルギーを起こさないのです。
では、子供のアレルギーの発症にはどのような生活スタイルが関係しているのでしょうか??
食器の洗い方が関係する?!
2015年にスウェーデンのある研究グループが発表した実験では、昔ながらの食習慣の中で衛生仮説をよく説明するものがないかが調べられました。
この研究グループは7、8歳の1029人の保護者を対象にその子供の持っているアレルギー疾患(皮膚炎、喘息、鼻炎・結膜炎)の有無と、昔ながらの食習慣(発酵食品を食べるか、食材を農場から直接買ってくるか、食器を手洗いするか)をアンケートで調べました。
そしてその結果を解析したところ、なんと食器を手洗いする家庭では食洗器で洗う家庭に比べて43%も子供がアレルギーを持つ確率(オッズ比といいます)が減少していたのです。
さらに、食器の洗い方に加えて、発酵食品を食べる、農場から直接食品を購入するという3つの条件のうち当てはまる条件が多いほどアレルギーを持っている確率は減っていることがわかりました。
手で食器を洗えばアレルギーを防げるのか?
今回の研究の結果を聞くにあたって一番難しいのがこの点です。
実はこの研究では「食器を手洗いする家庭では子供がアレルギーを持っている割合が低い」ということが分かっただけです。
食器を手洗いすることでアレルギーが減るかということを調べるには別の実験をして調べなくてはなりません。
これは専門的には因果関係(原因と結果である)と相関関係(原因と結果ではないが関係はしている)の違いと呼ばれるもので、次のようなケースを考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
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AとBという同じ道の向いにたっている二つのレストランがあったとします。
いつもお昼時には、Aにはたくさんのお客さんが店の外に行列を作って待っていて、一方Bにはあまりお客さんが入っておらず店員さんはいつも暇を持てあましています。
また、★5点満点で利用者が評価するレストランの格付けサイトで、Aの評価は★4.5点、Bの評価は★0.5点だそうです。
この情報から、お客さんのたくさん並ぶ店であれば格付けサイトで高評価だという原因と結果の関係があると言えるでしょうか。
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実はこの答えはNOです。
おそらく本当のこととしてあり得るのは、Aは料理がおいしかったりサービスが良かったりする店で、Bはそこまでよくない店だということでしょう。
その結果、Aにはたくさんの人が並び、サイトでいい評価がつく一方、Bにはお客さんは来ず、サイトには悪い評価がついている、というのが一番合理的な説明ではないでしょうか。
また、先ほど「お客さんのたくさん並ぶ店は格付けサイトで高評価だといえるでしょうか」という質問をしましたが、仮にいろんな人に頼み込んで1週間Aには人が並ばずにBには行列ができるような状況を作ったとします。
この状況では「Bがお客さんのたくさん並ぶ店」ということになっています。さて、サイトの★はBがAよりも多くなるでしょうか。
これもおそらく答えはNOです。Aを訪れた人は少人数であってもいい評価を書き込むでしょうし、わざわざおいしくないBに並ばされた人は悪い評判を書き込むでしょう。
その結果として、やはりサイトの評判はAの方がこの1週間の後も高いということになります。
つまり、今回のように単純に2つの指標の多い少ない同士を見ただけではそれらの間の因果関係は説明できないのです。
(しかし相関関係は言えます。自分が知らない2つの店からどちらかおいしいと考えられる店を選ぶときは、行列のできる店の方がサイトの評価の高いおいしい店だろうという判断はおそらく正しいでしょう。)
今回の実験でも、食器を手洗いする家庭では(上の話でいうと行列ができる店では)アレルギーの発症が少ない(★がたくさんついている)ということが分かっただけで、この二つは原因と結果の関係ではありません。
原因と結果の関係を証明するには、Bに並んでもらうよう頼んだように、実際にたくさんの家庭を集めてきて平等になるように条件を割り振った二つのグループを作り、一つのグループでは食器を手洗いする、もう一つのグループでは食洗器で洗うというようなお願いをして子供のアレルギーの発症がどうなるかを調べる必要があるのです。
結論としては、
手で食器を洗ったからといってアレルギーの発症を防げるかどうかは、新しく研究をやってみないとわからない
といったところです。
ちなみにこの実験は因果関係が説明できていないためダメな研究ということは決してなく、皿洗いちう独自の視点からアレルギーの発症に関する相関関係を発見したというだけでも十分価値のあるものだと言えます。
*参考文献
B Hasselmar et al.,(2015) "Allergy in Children in Hand Versus Machine Dishwashing". Pediatrics. 135(3).
2016/3/2 記事を微修正しました。